認定結果
2023年1月に開催された審査委員会において、応募された以下の5件について審査が行われました。審議の結果、5件とも「航跡」の認定対象としてふさわしいとされました。、同年3月に開催されたマリンエンジニアリング学会理事会において、その報告があり審査結果の通り、5件全てが認定対象として承認されました。
第1号
三段膨張蒸気機関は船舶の主機関として1945年頃まで使用されたが、現在では全て姿を消している。本機は我国に現存する唯一の三段膨張蒸気機関であり、東京商船大学の学生実験用として1936年に製造され、1945年まで使用された。なお、同機は東京商船大学学長だった菊植鉄三郎氏が設計し、1936 年に石川島造船所で製造されたものである。長く教育に利用され、現在、良好な状態で東京海洋大学百周年記念資料館に保存されている。
第2号
1934年頃に阪神鐵工所(現・阪神内燃機工業)で製造されたS1F形機関の一号機。単気筒の試験用エンジンであり、東京商船大学へ教材用として納入され60年余り学生諸氏の教育・研究に供されたあと申請者の元に帰ってきた。現在、阪神内燃機工業(株)玉津工場に保管されている。シリンダボア220mm、ストローク350mm、定格出力は25PS・380rpmでPmeは約4.5kg/㎠である。保管状態は良好で、現在も燃料を供給すれば十分に運転出来る。なお、S2F形(2シリンダ)機関はカタログに掲載されているが、S1F形の掲載は無く、実用機関ではなく実験や実習等に利用された試験用の機関であったと判断され、同エンジンは製造数も少ないと考えられる。
第3号
- 所有者
- 独立行政法人 国立高等専門学校機構 広島商船高等専門学校
- 保管場所
- 広島商船高等専門学校 技術教育センター棟 動力制御実習室
1940年竣工の中速4サイクルディーゼル機関((株)新潟鐵工所製 立形単動3気筒無気噴油式水冷機関 型式S3R)である。広島商船高等専門学校の新校舎が竣工された当時(1969年)からすでに校内実習工場に設置されており、海事教育機関の最古の実験機関と思われる。なお、製造会社(現IHI原動機)によれば、同機関は本来実用機関として戦時中に海軍に出荷されたものであり、他に同時代の機関の現存は確認されていない。同機関は、長年にわたり広島商船高専において教育目的で使用され、内燃機関に関するさまざまな実習に活用され、2014年まで実際に稼働し、教育上重要な役割を果たしてきた。現在もディーゼル機関の構造に関する説明およびクランク軸の開閉度(デフレクション)の計測・評価など、ディーゼル機関に初めて携わる高専学生の導入基礎教材として、教育上大きく貢献している。実用に供されていたエンジンが教育に使用されていた事例でもあり、現在も活用されている
第4号
1970 年頃から製造を開始した船舶推進装置用のゴム軸受をベースとして開発された装置である。1980 年代に海上自衛隊から高性能な水潤滑軸受の要望が高まり、防衛庁の委託研究事業としてゴムと低摩擦樹脂のハイブリッドによる高性能軸受の開発に着手した。低摩擦素材の最高峰であるPTFE は化学的安定性が高く、加工が非常に難しいという課題があった。特にゴムとの接着は難題であったが、高度な独自技術を開発し、海水中で数十年の使用に耐え、低摩擦、すなわち省エネ性能にも優れた軸受(FFベアリング)を開発した(1983年から販売開始)。現在、艦艇の多くが同ベアリングを採用し、民間船にも搭載が進んでいる。特に、従来、水潤滑軸受けの搭載が難しいとされた大型、高荷重の船での採用も広がっている。独自の高度な技術により開発された、油が出ないという環境親和性、低摩擦という省エネ性に加え、ほぼメンテナンスフリーであり製品寿命も長い製品である。加えて、新たな市場も開拓している。
第5号
1983年に市場に投入された主機遠隔操縦装置である。従来のプリント基板によるハードウェアを実装した主機遠隔操縦装置は、仕様変更に対しハードウェアの変更で対応していた。本装置は多様なエンジンに柔軟に対応するため入・出力機能等をモジュール化し、仕様変更に際しては、それらの組み合わせの変更により対応できるようにした。併せて、GUIを活用し容易にプログラミングができるソフトウェア環境(NAS言語)も開発した。この柔軟性に富んだシステムの開発により、多数の販売実績と、高いシェアを国内外であげている。また、唯一、舶用大型低速エンジンの3大ライセンサーすべてから承認を得た主機遠隔操縦装置である。本装置は高い汎用性・柔軟性を有するシステムであるとともに、制御において重要なソフトウェア開発環境も提供され、舶用動力システム構築の効率化に貢献していると考えられる。
認定証授与式
2023年5月26日に開催されたマリンエンジニアリング学会総会に引き続き、認定証の授与式が執り行われました。第31代会長の木下哲也氏から各組織の代表者に認定証が授与されました。
委員名簿(所属等は2023年3月時点)
審査委員名簿(順不同)
氏名 | 所属等 |
---|---|
藤久保 昌彦 | 日本船舶海洋工学会 会長 |
乾 眞 | 日本航海学会 会長 |
木下 哲也(委員長) | 日本マリンエンジニアリング学会 会長 |
掛谷 茂 | 日本船舶機関士協会 代表理事・会長 |
庄司 るり | 東京海洋大学 教授 |
宮崎 恵子 | 海上技術安全研究所 国際連携センター 副センター長 |
塚本 達郎 | 日本マリンエンジニアリング学会 会務委員長 |
田中 一郎 | 日本マリンエンジニアリング学会 学会賞等審査委員長長 |
実行委員名簿
氏名 | 所属等 | 特記事項 |
---|---|---|
伊藤 恭裕 | 元新潟原動機 (第26代学会長) |
シニア会 |
岡田 博 | 東京海洋大学名誉教授 | シニア会 |
杉田 英昭 | 神戸大学名誉教授 | シニア会 |
福岡 俊道 | 神戸大学名誉教授 | シニア会 |
大塚 厚史 | 三井E&S マシナリー | 会務委員会 |
菊池 俊哉 | 日本海事協会 | 会務委員会 |
釜田 和利 | 東京海洋大学 | 学会賞等審査委員会 |
清水 悦郎 | 東京海洋大学 | 広報委員会 |
春海 一佳(委員長) | 海上技術安全研究所 | 広報委員会 |