「マリンエンジニアリングの航跡~未来へ続く先達の功績~」アーカイブ 第2回 「マリンエンジニアリングの航跡」認定結果

認定結果

2024年2月に開催された審査委員会において、応募された以下の5件について審査が行われました。審議の結果、5件とも「航跡」の認定対象としてふさわしいとされました。、同年3月に開催されたマリンエンジニアリング学会理事会において、その報告があり審査結果の通り、5件全てが認定対象として承認されました。

第6号

原子力船「むつ」の原子力動力推進システム及び同技術資料
日本人が設計・製造した最初の原子炉
所有者
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 青森研究開発センター
保管場所
むつ科学技術館

1969年に進水した日本初の原子力船「むつ」の原子力動力推進システムである。エネルギーの多様化の一つとして発電分野において原子力の利用が進む中で、並行して進められた商船の推進動力に原子力を利用する試みであった。陸上の発電用原子炉は海外技術の導入によるものだったが、同船の原子炉は、日本人が設計・製造した最初の原子炉である。日本初の舶用原子炉を製造し船舶に搭載し、舶用利用に対応した船体動揺の影響、負荷変動の影響を確認したことは先駆的であった。また、過去の資料も保存されており、例えば現在稼働中の原子炉の解体等の課題に対しても、有益な知見をもたらしている。また、実際に原子炉を見ることができるようになっている。

第7号

複動4サイクルクロスヘッド型ディーゼル主機関  ―「氷川丸」搭載―
戦前の貨客船「氷川丸」に搭載されている主機関
所有者
日本郵船株式会社
保管場所
日本郵船 氷川丸

戦前の貨客船「氷川丸」に搭載されている主機関である。デンマークのB&W(Burmeister & Wain)社製の複動4サイクルクロスヘッド型ディーゼル機関(B&W 8680DS)2基で、製造時から大きな改造はされておらず、昭和初期、日本で大型船舶にディーゼル機関の導入が拡がった当時の姿を現在に伝えている。同機関は複動式のディーゼル機関であり、燃料噴射が空気噴射式である。複動式も空気噴射式も現在のディーゼル機関では採用されておらず、ディーゼル機関の変遷を知ることができる貴重な歴史遺産と言える。また同機関の状態は極めて良好であり、一般見学者に開放されている「氷川丸」の機関室で見学可能である。さらに、機関本体が現存することに加えて、機関図面やその機関の運転/保守を行った乗組員の証言記録も多数残っており、これらは当時の機関運用や故障の状況を知ることができる数少ない技術資料である。

第8号

プロペラ・ボス・キャップ・フィンズ(PBCF)
船舶のプロペラに装着する省エネ装置の草分け
所有者
株式会社商船三井商船三井テクノトレード株式会社株式会社西日本流体技研ナカシマプロペラ株式会社

船舶のプロペラに装着する省エネ装置である。プロペラ後流に発生するハブ渦による損失エネルギーを回収することに着目した初の省エネ装置であり、プロペラ効率を改善し燃料消費量を約5%削減する。1987年に㈱商船三井、㈱西日本流体技研、ミカドプロペラ㈱(現・ナカシマプロペラ㈱)の3社が開発した。多数の水槽模型試験および実船計測により、船舶の燃料消費量削減が認められており、大型コンテナ船ではCO2排出量を年間9000トン以上削減する。船舶向けの省エネ装置として草分け的存在であり、多数の採用実績を国内外で達成している。プロペラに装着する省エネ装置として先駆的であるとともに、すでに市場に広く受け入れられており、省エネ効果も原理的な部分から確認がなされている。

第9号

Z形推進装置(Zペラ)
独自開発した推進機構
所有者
株式会社IHI原動機

アジマススラスタの一種である。入力軸からプロペラまでの動力伝達経路がアルファベットの「Z」に似ている事から命名された。タグボートを対象として開発に着手し、1969年に初号機をタグボートに納入している。同時に、本推進装置向けに遠隔操縦装置も新たに開発している。1973年には極低速での運用を可能にするオメガクラッチ(スリップクラッチ)を開発・導入し使いやすさの向上を図っている。1976年より海外展開も強化している。技術的な改良も続け、本推進装置は、0ノットから全速まで安定した操船性能を発揮し、タグボート、防災船、オフショア支援船、作業船などで広く利用されている。タグボートにおいては、日本国内で約90%、海外で約30%のシェアを確保している。独自開発した推進機構であり、信頼性、性能は市場において広く認められている。
注)Z-PELLER、およびZペラは、IHI原動機の登録商標

第10号

微粉炭ディーゼル機関
燃料多様化への挑戦
所有者
株式会社赤阪鐵工所
保管場所
株式会社赤阪鐵工所 中港工場

微粉炭を燃料とするディーゼル機関である。1939年に川口市の国立燃料研究所の依頼で赤阪鐵工所が製作した。戦争による重油入手難から、微粉炭を燃料とするディーゼル機関が検討されその試験機関として製作された。4サイクル機関であり、シリンダカバーに圧縮圧力変更装置をつけ、微粉炭燃焼と重油燃焼に対応できるようにしている。時代背景を反映した燃料多様化へのニーズに対応しようというディーゼル機関であり、挑戦的な機関であったと言える。本来の目的である微粉炭燃焼は実用化に至らなかったものの、試験データは木炭ガス機関など、次のエンジン開発に引き継がれた。本機関は、屋外にそのままの形で保存・展示されており、状態も良い。

認定証授与式

2024年5月31日に開催されたマリンエンジニアリング学会総会に引き続き、認定証の授与式が執り行われました。第32代会長の塚本達郎氏から各組織の代表者に認定証が授与されました。



国立研究開発法人日本原子力研究開発機構と関係者



日本郵船株式会社



株式会社商船三井、商船三井テクノトレード株式会社、

株式会社西日本流体技研、ナカシマプロペラ株式会社



株式会社赤阪鐵工所



集合写真


なお、IHI原動機は出席がかなわなかったため、後日学会事務局より認定証を授与しています。

委員名簿(所属等は2024年3月時点)

審査委員名簿(順不同)

氏名 所属等
橋本 州史 日本船舶海洋工学会 会長
乾 眞 日本航海学会 会長
塚本 達郎(委員長) 日本マリンエンジニアリング学会 会長
四方 哲郎 日本船舶機関士協会 代表理事・会長
庄司 るり 海上・港湾・航空技術研究所 理事長
川上 雅由 日本内燃機関連合会 専務理事
河本 賢一郎 日本マリンエンジニアリング学会 会務副委員長
高橋 千織 日本マリンエンジニアリング学会 学会賞等審査委員長長

実行委員名簿

氏名 所属等 特記事項
伊藤 恭裕 元新潟原動機
(第26代学会長)
シニア会
後藤 博 元新潟原動機(元学会事務局長) シニア会
若月 祐之 元三菱重工業 シニア会
福岡 俊道 神戸大学名誉教授 シニア会
大塚 厚史 三井E&S マシナリー 会務委員会
菊池 俊哉 日本海事協会 会務委員会
桑田 敬司 東京海洋大学 学会賞等審査委員会
清水 悦郎 東京海洋大学 広報委員会
春海 一佳(委員長) 海上技術安全研究所 広報委員会

関連資料ダウンロード